福岡高等裁判所 昭和60年(ネ)78号 判決 1986年1月29日
控訴人(付帯被控訴人、以下たんに控訴人という。)
田中チエ子
控訴人
久米鋭志
右両名訴訟代理人弁護士
倉増三雄
被控訴人(付帯控訴人、以下たんに被控訴人という。)
福岡県信用保証協会
右代表者理事
永井浤輔
右訴訟代理人弁護士
広瀬達男
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 付帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
福岡地方裁判所が同裁判所昭和五〇年(ケ)第二六九号不動産競売事件につき、昭和五二年九月九日作成した配当表中被控訴人に対する配当額二一六万六八五四円を二八六万五二一六円に、控訴人田中チエ子に対する配当額二〇〇万円を一六二万九三三五円に、控訴人久米鋭志に対する配当額三二万七六九七円を零に各変更する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。
事実
控訴人ら訴訟代理人は、控訴の趣旨として、「原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、付帯控訴の趣旨に対する答弁として、「本件付帯控訴を棄却する。付帯控訴の費用は、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴の趣旨に対する答弁として、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人らの負担とする。」との判決を求め、付帯控訴の趣旨として、主文第二、三項同旨の判決を求めた。
当事者の主張は、当審において、被控訴人訴訟代理人が次のとおり主張を付加し、控訴人ら訴訟代理人が右主張事実を認めると述べたほかは、原判決の事実摘示に記載のとおりであり、証拠の関係は、原審及び当審の記録中の各書証目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。
「1 昭和四九年八月二六日現在における訴外横田信義の訴外銀行に対する債務は、昭和四六年一二月一七日付貸付金二〇〇万円(以下「A貸付金」という。)の残元本六〇万円、遅延損害金一万三二四六円と昭和四七年八月一二日付貸付金三〇〇万円(以下「B貸付金」という。)の残元本一九一万円、遅延損害金六万四七一〇円であり、被控訴人が訴外銀行に以上合計金二五八万七九五六円を支払つたことにより、訴外横田信義の訴外銀行に対する債務は完済された。
2 訴外横田信義から被控訴人に対し、A貸付金にかかる求償金について別表記載一のとおり、B貸付金にかかる求償金について別表記載二のとおり内入弁済があつたので、被控訴人はこれらを弁済の都度各求償金の元本に充当したが、これは中小企業者の負担軽減という観点から被控訴人の内部的取扱からなしたものである。」
理由
一被控訴人主張の次の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
1 訴外横田信義は、訴外銀行から、(1)昭和四六年一二月一七日金二〇〇万円を、三年の分割払、遅延損害金年一四パーセントの約定で、(2)昭和四七年八月一二日金三〇〇万円を、五年の分割払、遅延損害金年一四パーセントの約定で借受けた。
2 訴外内田克己は、昭和四七年八月一二日訴外銀行に対し、本件不動産につき、被担保債権の範囲を訴外銀行の訴外横田信義に対する銀行取引等による債権とし、極度額を三九〇万円とする根抵当権を設定した。
3 被控訴人は、昭和四七年八月一二日訴外横田信義との間で信用保証委託契約を結び、これに基づいて訴外銀行に対し、訴外横田信義の本件A貸付金及びB貸付金債務につき三〇〇万円を限度として保証した。
4 右信用保証委託契約には、被控訴人が訴外銀行に代位弁済したときは、訴外横田信義は被控訴人に対し、弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から支払ずみまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の約定がある。
5 訴外横田信義は昭和四九年二月二日銀行取引停止処分を受けた。
6 被控訴人は昭和四九年八月二六日訴外内田克己の承諾のもとに訴外銀行から右根抵当権の全部譲渡を受けるとともに、被担保債権の範囲を信用保証委託取引による一切の債権に変更し、その旨の登記を経由した。
7 昭和四九年八月二六日現在における訴外横田信義の訴外銀行に対する債務は、A貸付金の残元本六〇万円、遅延損害金一万三二四六円、B貸付金の残元本一九一万円、遅延損害金六万四七一〇円であり、被控訴人は同日以上合計金二五八万七九五六円を訴外銀行に支払つて訴外横田信義の債務を完済した。
8 昭和四九年一〇月三日から昭和五一年六月四日までの間に、訴外横田信義から被控訴人に対し、A貸付金にかかる求償金について別表記載一のとおり、B貸付金にかかる求償金について別表記載二のとおり内入弁済があつた。
9 被控訴人は、別表記載一の内入弁済金を弁済の都度A貸付金にかかる求償金の元本に、別表記載二の内入弁済金を弁済の都度B貸付金にかかる求償金の元本にそれぞれ充当した。
10 昭和五〇年一一月二〇日被控訴人の申立により不動産競売手続開始決定(福岡地方裁判所昭和五〇年(ケ)第二六九号)がなされ、昭和五二年九月九日の配当期日までに被控訴人は競売代金から優先弁済を受けるべき債権は金二八六万五二一六円であるとして、債権計算書を提出した。
11 競売裁判所は、被控訴人への配当額を金二一六万六八五四円、控訴人田中チエ子に対する配当額を金二〇〇万円、同久米鋭志に対する配当額を金三二万七六九七円とする配当表を作成し、被控訴人は右配当表に対し異議を申出たが、完結しなかつた。
二次に、当裁判所も原判決と同様、本件根抵当権の担保すべき元本は、昭和四九年八月二六日までに確定したものと認定、判断するが、その理由は、原判決の理由説示(原判決五枚目裏三行目から六枚目裏一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。
したがつて、被控訴人は民法第五〇一条により、代位弁済によつて取得した求償債権の範囲内で、訴外銀行の訴外横田信義に対する貸付金債権(以下「原債権」という。)とその担保権である本件根抵当権を行使すべきこととなる。
三そこで被控訴人が本件競売代金から優先弁済を受けるべき金額について検討する。
前記認定事実によれば、被控訴人は、昭和四九年八月二六日訴外銀行に代位弁済したことにより、訴外横田信義に対し、(原債権として、①A貸付金の元本金六〇万円、遅延損害金一万三二四六円、右金六〇万円に対する昭和四九年八月二七日から支払ずみまで年一四パーセントの割合による遅延損害金、②B貸付金の元本金一九一万円、遅延損害金六万四七一〇円、右金一九一万円に対する昭和四九年八月二七日から支払ずみまで年一四パーセントの割合による遅延損害金の債権を有し、求償金債権として、③金六一万三二四六円及びこれに対する昭和四九年八月二七日から支払ずみまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金、④金一九七万四七一〇円及びこれに対する昭和四九年八月二七日から支払ずみまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の債権を有するに至つたことが認められる。
ところで、被控訴人は別表記載一の内入弁済金をA貸付金にかかる求償金の元本に、別表記載二の内入弁済金をB貸付金にかかる求償金の元本に充当したと主張するところ、<証拠>によれば、昭和四七年八月一二日に訴外横田信義と被控訴人との間に締結された信用保証委託契約の契約条項第七条において、「委託者または保証人の弁済した金額が貴協会に対する債務の全額を消滅させるに足りないときは、貴協会が適当と認められる順序、方法により充当されても異議はありません。」との約定がなされていることが認められるから、民法第四九一条所定の順序と異なる順序で右各求償金について被控訴人がなした右充当は有効というべきである。
そこで、右③の求償債権については、別表記載一の内入弁済金を弁済の都度元本に充当し、右④の求償債権については、別表記載二の内入弁済金を弁済の都度元本に充当し、右①の原債権については、別表記載一の内入弁済金を弁済の都度遅延損害金、元本の順に充当し、右②の原債権については、別表記載二の内入弁済金を弁済の都度遅延損害金、元本の順に充当することとして、昭和五二年九月九日現在における残債権額を計算すると、右①の原債権は、①′元本二六万六四三〇円、遅延損害金四万七二一二円に、右②の原債権は、②′元本一九一万円、遅延損害金六七万七八九八円に、右③の求償債権は、③′元本一五万六〇〇〇円、遅延損害金一二万八九三六円に、右④の求償債権は、④′元本一七七万四七一〇円、遅延損害金八〇万六二九一円になる。
そして、右①′、②′の原債権の合計金額は金二九〇万一五四〇円であるところ、右③′、④′の求償債権の合計金額は金二八六万五九三七円であつて、原債権の金額の範囲内にあるから、被控訴人が本件競売代金から優先弁済を受けるべき金額は、右金二八六万五九三七円であるというべきである。
なお右のとおり、原債権の金額の範囲内にある限り、被控訴人は約定利率年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を含む求償金の総額について、原債権を行使し、その担保権によつて優先弁済を受けうるものと解するのが相当である。
四そうすると、被控訴人が本件競売代金から優先弁済を受けるべき金額は金二八六万五二一六円であるとして、その旨本件配当表を変更することを求める被控訴人の請求は、正当として認容すべきである。
よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、被控訴人の請求を一部棄却した原判決に対する本件付帯控訴は理由があるから、原判決を変更し、被控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官高石博良 裁判官石井義明 裁判官松村雅司)